「ルックスライク」(伊坂幸太郎)

読み終えて「なるほど」と納得できる

「ルックスライク」(伊坂幸太郎)
(「日本文学100年の名作第10巻」)
 新潮文庫

「日本文学100年の名作第10巻」新潮文庫

美人のクラスメート・美緒から、
無賃利用者を一緒に
捕まえて欲しいと請われ、
和人は駅の地下駐車場に向かう。
犯人を見つけた美緒は…。
〔高校生〕
ファミレスで客に絡まれている
店員の朱美を、
邦彦は機転を利かせて救う…。
〔若い男女〕

読み終えて「なるほど」と納得できる、
楽しい仕掛けのある作品です。
「高校生」と「若い男女」の
2つのパートが交互に現れ、
最後は一つに融合するというものです
(似たような構造は村上春樹の長編小説
「世界の終りと
ハードボイルド・ワンダーランド」
にも
見られます)。
短篇ながら、よくできた作品です。

【主要登場人物】
「高校生」
久留米和人
…高校生。顔のそっくりな父親に
 反発心を抱いている。
織田美緒
…和人の同級生。美人。
 駅の地下駐車場の
 無賃利用者を見つけ出そうとする。
深堀先生
…和人の高校の英語教師。
 三十代後半。美人。
和人の父親
…平凡なサラリーマン。
「若い男女」
笹塚朱美
…ファミレスで
 バイトをしている大学生。
邦彦
…朱美より2歳年上の恋人。
 朱美を絡んできた客から救う。

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「高校生」と「若い男女」は、それぞれ
どことなく似ている筋書きです。
どこにでもいそうな若い男(邦彦・和人)、
美人の女の子(朱美・美緒)、
その女の子が年配の男性に絡まれる
「事件」(ファミレスで高齢の客から
長々と苦情を受ける朱美、
地下駐輪場で無賃利用した男から
逆ギレされる美緒)など、
シチュエーションは
共通しているのです。

それらが交互に現れ、
7つの章をつくり
(「高」「若」「高」「若」「高」「若」「高」)、
最後にもう一つ置かれた「高校生」の章に
「若い男女」の登場人物が合流する
全8章構成となっているのです。
「高校生」の和人と美緒の距離が
徐々に接近していき、
「事件」を迎えるのに対し、
「若い男女」では「事件」をきっかけに
付き合っている朱美と邦彦の仲が、
次第に冷え込んでいく様子が
描かれているのが、
両者の違いでしょうか。

両者が一体どう交わるのか、
それが読みどころであり、
ここで明かすわけにはいきません。
読み終えてから確認すると、
登場人物の名前が、
フルネームで表記されている者と
片方しか記されていない者とが混在し、
ここが一つの
仕掛けとなっているのです。

冒頭で和人が漠然と抱いていた、
父親に対しての反発心は、
終末では見事に霧消しています。
終始軽妙な文体で綴られ、
爽やかに始まり爽やかに終わる、
明るい現代小説となっています。
売れっ子作家の作品は
敬遠する癖のある私なのですが、
本作品と出会い、
伊坂幸太郎の他の作品も
読んでみたいと思うようになりました。

※それにしても、
 父親が昔の恋人と再会する場面に
 立ち会う息子の気持ちは
 どうなのだろうと考えてしまいます。

「日本文学100年の名作第10巻」
 収録作品一覧

2004|バタフライ和文タイプ事務所
             小川洋子
2004|アンボス・ムンドス 桐野夏生
2005|風来温泉 吉田修一
2005|朝顔 伊集院静
2006|かたつむり注意報 恩田陸
2006|冬の一等星 三浦しをん
2007|くまちゃん 角田光代
2007|宵山姉妹 森見登美彦
2008|てのひら 木内昇
2008|春の蝶 道尾秀介
2009|海へ 桜木紫乃
2009|トモスイ 髙樹のぶ子
2009| 山白朝子
2009|仁志野町の泥棒 辻村深月
2013|ルックスライク 伊坂幸太郎
2013|神と増田喜十郎 絲山秋子

(2022.12.1)

Sasin TipchaiによるPixabayからの画像

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【今日のお知らせ2022.12.1】
以下の記事をリニューアルしました。

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